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院長通信

2011年8月

扁桃摘出術の話

 一昨年まで市立岸和田市民病院で勤務医をしていた私にとって夏休みと言えば子供達の扁桃摘出術のシーズンでした。
毎年7月から8月にかけて50名前後の子供達の扁桃摘出術を行っていました。
この扁桃摘出術の適応(どのような場合に手術を行うべきかの判断)については医師によってかなり考え方に違いがあり、積極的に手術を勧める医師、手術は出来るだけ避けるべきだと考える医師等様々です。
極端な話、百名の医師が百名の患者さんを診察して手術適応を判断すれば百通りの結果が出るかもしれません。

 学校検診で扁桃肥大を指摘され悩まれる御両親もかなりおられるようで、私もたびたび扁桃腺に関する相談を受けています。 多くの患者様とお話して感じるのは、必要以上に手術を怖がっておられる方が多いという事です。
そこで今月は扁桃摘出術についての私見を述べてみたいと思います。

 一般に扁桃腺と呼ばれているのは鏡でのどを覗いた時、のどの両側に見える口蓋扁桃ですが、扁桃腺には他に咽頭扁桃(アデノイドとも呼ばれます)、舌扁桃、耳管扁桃等があります。
これらの扁桃腺はリンパ組織の集まりで、感染防御や免疫に関係する大切な組織です。

ではなぜこのような大切な組織を手術して取り去る必要があるのでしょうか?

それは扁桃腺が体にとってマイナスの働きをする場合があるためです。

例えば年に4回以上扁桃腺が炎症を起こして高い熱が出るような場合、また扁桃腺の炎症が腎臓、関節、皮膚等の他臓器に障害を引き起こす場合、さらに扁桃腺の存在が呼吸や嚥下(飲み込み)といった日常生活に支障を与えている場合等がそれに当たります。 このような場合は扁桃腺を摘出する事によって体に対するマイナスの働きを取り除く事が出来るのです。
このように扁桃腺を除去する事によって得られるプラスが扁桃腺を失うマイナスを上回ると考えられる場合が扁桃摘出術の適応となるのです。 ただ扁桃腺が大きいというだけでは扁桃摘出術を行う理由にはなりません。

 一般に扁桃摘出術は全身麻酔下で行われ、通常約1週間の入院が必要です。 私は千例以上の扁桃摘出術を執刀してきましたが、手術に関するトラブルは経験した事がありません。 また大多数の患者様から手術後体調が良くなったとの経過を聞かせてもらっておりますが、術後体調を崩されたケースは経験しておりません(扁桃腺を取ったのに熱が出たとの抗議は数回受けた事がありますが、扁桃腺を取っても風邪を引けば熱が出る事はあります)。

 扁桃腺の病気に関して悩んでおられる方はたくさんおられると思います。
しかし、いたずらに手術を恐れ体に負担をかけるのは得策とは思えません。
人間の体は一人一人異なりますので手術適応を一律に決める事は困難です。
専門家(耳鼻咽喉科医)の助言を聞いた上で適切な判断を下していただきたいと思います。