兵庫県西宮市甲子園口 耳鼻咽喉科 レーザー手術 甲状腺腫瘍 花粉症 アレルギー

院長通信

2012年8月

耳鳴りの話

 患者様が悩んでおられるのにそれを客観的、具体的にとらえられない病気があります。これは各専門分野に存在するのですが、耳鼻咽喉科領域でよく見られる病気には「耳鳴症」、「一部のめまい」、「咽喉頭神経症」などがあります。今回は「耳鳴症」に絞ってお話を進めたいと思います。

 「耳鳴症」は耳の奥、頭の中からいろいろな音が聴こえるというもので、音の種類としては低音のブーンという振動音に近いものからキーンという高調な機械音まで様々な音が聴かれるようです(患者様本人にしか判らない音なので伝聞形式の表現になってしまいます)。また時には拍動音が聴こえると訴えられる方もおられます。大多数の方は周囲が静かになった時に感じられますが、1日中聴こえているとおっしゃる方もおられます。

 この「耳鳴症」の歴史は長く、紀元前10世紀のメソポタミアの碑文にすでにこの音の存在について刻まれており、ギリシャ文明の最盛期にも治療を試みたという記録が残っているそうです。つまり人類は3千年以上にわたってこの音に悩まされてきたことになります。またある統計によると高齢者の25%は耳鳴に悩まされているそうです。

 しかし「耳鳴症」については未だに客観的な診断方法がなく確立された治療法もないのが現状です。一部のマスコミで興味本位にこの「耳鳴症」の治療法が取り上げられ、患者様が特定の治療法や薬を求めて右往左往するといった事もありましたが、裏付けのない治療法は直ぐにすたれてしまいます。「耳鳴症」の患者様にはかなりの頻度で「うつ病」や「心身症」が含まれることが判っており、精神面も含めた対応が必要となります。

 耳鳴りを主訴に当院を受診された患者様はまず聴力検査、チンパノメトリーを受けていただき神経性難聴や鼓室内の異常といった問題がないかを検査します。 その結果を踏まえて患者様の病態に応じた内服治療や耳管処置を行わせていただいております。

 私の経験ではこの耳管処置が案外有効で、耳鳴りが気にならなくなったとおっしゃる患者様がかなりおられます。但しこれはあくまでも「耳管処置を行ったところ耳鳴りが気にならなくなった患者様がおられた」と言う事で、耳管処置が「耳鳴症」に有効な治療法であるという訳ではありません。

 内服治療はビタミン剤や循環改善剤が主となりますが、軽い精神安定剤が有効な場合も少なくありません。日本ではまだ精神安定剤に対する偏見があるようで、安定剤の服用を嫌われる患者様もしばしば見受けられますが、症状に見合った適切なお薬を服用していただき快適な日常生活を送っていただくのが私どもの目標ですので、先入観なく治療を受けていただきたいと思います。

 以上述べてまいりました様に耳鳴りというのはなかなか厄介な症状で、確実にお止め出来ますとは申せないのが現状です。しかし何もしなければ改善は見込めませんので、耳鳴りでお悩みの方は一度耳鼻咽喉科医と相談されることをお勧めいたします。